交通死亡事故ゼロへの挑戦
Challenges to Zero Traffic Fatalities

日本における交通事故死亡者数は年々減り続けており、ここ5年では連続して戦後最小を更新しています。これは人々の長年の努力によって成し得たものです。技術の切り口でその具体的な取組みを教育、予防、衝突、救急という観点で特集しました。交通事故死亡者数ゼロへの道はまだまだ課題がありますが、「必ず実現する︕」という思いと共に、明確な狙い・目標と具体的施策をもった本気の取組みを是非ご覧ください。

このページについて

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交通事故死傷者ゼロに向けた包括的アプローチ

究極的に交通事故ゼロの社会を目指すための政策的な取組みと、交通安全を考える上で必須の人・道・クルマの交通安全3要素について概観する。さらに、近年の高度運転支援や自動運転に関わる最近の取組み、中でも安全性の向上に関わる研究プロジェクトについて解説する。

社会問題としての交通事故の推移

WHOは2006年、交通事故は世界全体の死亡原因の第9位を占め、2030年にはその順位が上昇すると警告した。日本では、交通死亡事故は減少傾向にあるが、数は少ないものの、様々な形で精神的被害を社会に与えるとともに、2020年時点でも若者(5~29歳)の死亡原因の第3位を占め、無視できない社会問題の一つである。

事故自動緊急通報システムの現状と今後の展望

事故による死傷者数ゼロを目指すためには、最後の砦としての被害者の迅速で効果的な救援に資する事故自動緊急通報システムの普及と改善が必要である。そのためには、車載・後付のシステムを問わず事故自動緊急通報の均質化を実現する普遍化、及び乗員だけではなく歩行者や自転車乗員などの交通弱者をも含めた救済の高度化を図る必要がある。

わが国の事故自動緊急通報システムの現状

日本では事故自動緊急通報システムが2015年から試行され、2018年から本格運用されている。この交通事故データを用いたアルゴリズムは2015年版から2017年版に発展している。本稿では、乗員傷害の予測アルゴリズムを説明する。また、そのJIS制定に至る経緯と現在のISOの活動についても紹介する。

人体個体差を考慮した傷害研究および傷害低減技術の開発

交通事故による死亡重傷者低減実現のため、重傷化しやすい腹部傷害に焦点を当て、自動車シート着座時での人体骨格形状の個体差分析結果を基に作成した人体FEモデルによる衝突時の乗員挙動解析から、シートベルトずれ上がり現象の寄与因子を特定した。本研究より、乗員傷害低減に有効な3つの安全技術を構築した。

自動車衝突時の歩行者の路面落下挙動の分析

車対歩行者衝突では歩行者は路面接触によっても受傷する。歩行者の路面傷害に関するレビューを行い、次に、我々が行った車と歩行者の力の相互作用に基づく歩行者運動の研究を紹介した。歩行者が車に再接触する際に働く力積によって、歩行者の体幹の角速度が変化し、路面接地時の体幹角度が90度以下になることがわかった。

歩行者検知機能付き車載リアカメラ

車両後退時の人身事故予防のため、車両後方の歩行者を検知し、ブザーでの注意喚起、衝突の可能性がある場合は自動ブレーキを行うことのできる世界初の歩行者検知機能付き車載リアカメラを開発した。本カメラは、①検知機能をカメラに搭載、②静止している人も検知、③高画質な後方カラー映像を表示可能、という特長を有する。

高齢ドライバ特性を踏まえた安全・安心に運転できる仕組みづくりを目指して

本報告では、運転能力維持・向上を目指し個人に最適化した運転支援技術や教育プログラム開発のための、高齢ドライバの人間・運転特性に関するデータベース「DAHLIA(ダリア)」の概要を紹介し、DAHLIAを活用した運転支援手法の開発例を紹介する。

ICTを活用した新たな安全教育

全国 7 ヵ所にある Honda の交通教育センターのうちの一つ、鈴鹿サーキット交通教育センターは、Honda が開発した DSPシステムを活用した安全運転研修を行っている。このシステムを搭載した専用の車両を使って、運転行動やクルマの挙動に関するデータを高精度に測定、収集したデータをもとに受講者の気づきを促す指導に活かしている。

<HOT Topics>近くにだけ音を届けやすいスピーカアレイ─パーソナルな音響空間の実現に向けて

ごく近傍にだけ音を届けられるスピーカ・アレイに関する研究を紹介する。このスピーカ・アレイをヘッドレスト等に取り付ければ、ヘッドホンやイヤホンのように耳に蓋をせずとも、ユーザの耳元にだけ音を届けやすい。人々がそれぞれに再生する音と音とが干渉し合わない、パーソナルな音響空間の実現を目指した技術である。

<HOT Topics>波状路走行状態における自動車のエンジンフード空気力発生メカニズム解析

波状路走行時、自動車のエンジンフードには路面からの変位入力と車両の走行風による空気力が複合で作用する。フード耐久強度確保のためには図面段階からの入力解析と他性能の成立性検討が必要である。今回、力学モデル・CFD解析により、フードの空気力発生メカニズム解析と空気力に影響する設計因子の寄与度解析を実施した。

<HOT Topics>次世代SiC 型車載用インバータのサーマルマネジメント

次世代のSiC型車載用インバータでは、素子での発熱密度が500W/㎠にも達すると予想されている。この様な高発熱環境では素子と冷却面間での熱抵抗問題が顕在化し、大きな温度差が生じる。このブレークスルー技術としてロータス型ポーラス銅を用いた沸騰浸漬冷却技術を紹介し、無動力で500W/㎠の冷却性能を達成できることを報告する。

<HOT Topics>再生可能エネルギー資源を活用する水素キャリアの製造・利用技術

本稿では、2050年のカーボンニュートラルを実現するための具体策として実装が進む再生可能エネルギー、再生可能エネルギー資源を活用して様々なエネルギー消費セクターを繋ぐ水素キャリアの役割、産業技術総合研究所における水素キャリアの製造及び利用技術の研究開発動向について解説する。

<HOT Topics>一般年齢層のドライバを対象としたペダル踏み間違いに至る操作過程の分析

本研究は、一般ドライバを対象に踏み間違いが発生しやすい状況を運転シミュレータで検討した。咄嗟の制動時、フロアに踵をつけたままブレーキを踏んだ場合、踵を浮かせた踏み替え方より横移動量が不足し、アクセル寄りの位置を踏みやすいこと、心理的に動揺した状況では、アクセルの踏み込み速度が増加することが示された。

<HOT Topics>磁界結合を利用した非接触式走行中給電によるGHG排出量削減効果

本稿では電気自動車の充電にかかる問題を解決できる走行中給電の効果に関して、充電によって発生するGHG排出量に加え、車両の製造まで含んだGHG排出量の変化を定量的に評価する。

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