進化する車両制御技術

本号では、自動車の運動性能に関わる先端技術を特集しました。意のままに運転する楽しさは自動車が持つ大きな魅力の一つですが、自動運転が現実になろうとしている今、より安全・快適な自動車を目指して、制御技術はどう変化していくのか、専門外の方であっても興味をそそられるところではないでしょうか。CASE時代を迎え、自動車の運動性能の価値や達成レベルも変化しつつあります。本号が自動車の未来を伺える特集となっていれば幸いです。是非ご一読ください。

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CASE時代に求められる自動車の運動性能と制御

CASEの時代に入り、クルマとヒトとの関りは大きな変化を迎えている。電動化によるアクチュエータの進化は既存の課題に対するスパイラルレボリューションを可能にした。一方で新たなユーザ要求により従来にはない課題が生まれている。本稿では近年の車両運動と制御の取り組みを振り返り次世代に望まれる技術について展望する。

新型エクストレイルに搭載したe-4ORCE制御技術

新型日産エクストレイルは、100%電気駆動システム「e-POWER」と前後2基の独立した電気モーターを搭載し、前後の駆動力を高い柔軟性と高精度で制御することを可能としている。あわせて、ブレーキ・駆動力配分の統合制御システムの最適化による安定したコーナリングと、駆動力制御による加減速時の車両姿勢制御を実現する制御技術「e-4ORCE」を適用している。

新型アウトランダーPHEV の車両運動統合制御システムS-AWC

新型アウトランダーPHEVは、三菱自動車の4輪制御技術の開発コンセプトAWCに基づき開発された車両運動統合制御システムS-AWCを採用している。本稿では、AWCコンセプト、S-AWCの制御システムとその電動化による性能向上、新型アウトランダーPHEVのS-AWCの進化点について解説する。

自然なフィーリングと車両運動性能向上を両立した大舵角後輪操舵システム

従来、後輪操舵の運動性能への効果は公知だが、ドライバにはその作動が分かり、ほとんどが違和感と捉えられていた。今回、新たなシステムを開発し、極低速や後退時など大舵角でも違和感のない自然なフィーリングを達成した。本稿ではその内容と合わせ、ADASへの応用例も紹介する。

大局的姿勢安定化制御技術を応用した自動車の車両運動制御

現代制御理論に基づく制御システムを搭載し、車両運動を統一的に制御することは複雑なシャシを効率よく制御するのに有効であるが、ドライバの運転する楽しみを損なってしまう場合がある。大局的姿勢安定性制御の概念を応用することによってドライバにとっても満足できる操安性を兼ね備えた制御システムを構築した。

二脚ロボット歩行技術を応用した二輪車の停止および極低速時走行時に自立可能なバランスアシスト制御

二輪車は中高速ではロール安定だが停止・極低速では足で支え操作に気を遣う必要がある。既に等価2質点動力学モデルを用いた操舵制御により停止・極低速時に自立可能なバランス制御を提案しているが操舵制御がライダ操作に介入し操縦性が低下する課題があった。本稿では後輪揺動機構を用いた改良型バランス制御を提案する。

新たな要求に応える先進ブレーキシステム

電動化、自動運転、新しい車両アーキテクチャなど、予防安全の要となるホイールブレーキをとりまく性能要件が変わりつつある。車両の縦方向の動きを制御するものであることに変わりはないが、より多くのことが求められている。本稿では、信頼性を維持しつつ新たなメリットをもたらすブレーキシステムを紹介する。

ステアバイワイヤシステムの技術的な特徴

ステアリングシステムが機械的な接続から解放されると、車両に大きな進化をもたらすと注目されており、今後、大きく普及すると考えられる。本稿では、電動パワーステアリングシステムとステアバイワイヤシステムの違いを中心に、技術的な概要を述べる。

多重連結車両の安定制御と車線維持性能へ及ぼすその影響

本稿では、我が国のトラック輸送を取り巻く現状と、それを支える連結車両の種類、特徴および安定性について述べる。多重連結車両に対して、トレーラ輪を操舵する安定制御を適用することで、ドライバの操縦モデルも含めた閉ループ系シミュレーションにより、車線維持性能が向上する結果について紹介する。

自動運転車乗員の乗り物酔い低減に向けた頭部運動を変化させる運動特性の追求

自動運転車乗員の動揺病低減に向け、動揺病発症率との関係性が知られる乗員の頭部運動を低減する車両運動制御の研究を行っている。本稿では、G-Vectoring制御の頭部運動低減効果を仮定してドライビングシミュレータに車両運動を再現し、乗員の頭部運動を計測・比較し、頭部運動変化メカニズムの解明を試みる。

<Hot Topics>紙製吸音材開発の検討

近年、地球温暖化が注目される中、非石油由来資源として、プラスチック、セルロース系材料、バイオプラスチック材料の3Rが注目されている。今回、植物由来のパルプモウルドを用い、吸音性能、軽量化、断熱などの機能を持った開発材料について紹介する。

<Hot Topics>自動運転を監視するドライバ状態の判別─fNIRSを用いた検討

自動運転技術の普及に向けて、ドライバがシステムを監視する状態を脳活動から判断する方法を検討した。fNIRSを使って脳の状態を調べ、監視状態の違いを機械学習で判別した。fNIRSの時系列と画像のそれぞれのデータに対して学習を行い、判別率からドライバ状態判別システムの車載利用の可能性について考察した。

<Hot Topics>地球規模での炭素循環と海洋大循環

人為起源による大気二酸化炭素濃度の増加が社会的な問題となっているが、大気と海洋には長い地球の歴史のなかで培われてきた自然の炭素循環も存在している。海洋には大気の約60倍もの炭素が貯蔵されており、海洋での炭素循環は生物ポンプや海洋大循環によってコントロールされている。本稿では、地球規模での炭素循環と、そのなかで重要な役割をもつ海洋大循環について取り上げて解説する。

<Hot Topics>自動車部門におけるカーボンニュートラルシナリオとそのコベネフィット効果の検討

2050年までを対象とした自動車技術の進展と消費者選好を考慮した長期温室効果ガス推計手法に、自動運転等の交通流対策の定量化が可能な手法を加えることで自動車部門の統合対策評価手法を開発した。その手法を用いて、複数シナリオにて、温室効果ガス削減効果に加え、コベネフィット効果を検討した。

<Hot Topics>「焼かないセラミックスの可能性」─非常識が常識になる

セラミックス産業における焼成工程のエネルギー消費量は全製造工程の中で大きな割合を占めており、環境負荷の低減が求められる。無焼成固化法は、粉末粒子表面を機械的に活性化し、その成形体を焼成なしに固化させることが可能である。本手法のメカニズムについて概説し、最近の無焼成セラミックスの適用事例を紹介する。

<Hot Topics>人とAIロボットの創造的共進化によるサイエンス開拓─2050年のサイエンス探求に向けて─

ムーンショット目標3のプロジェクト「人とAIロボットの共進化によるサイエンス開拓」では、2050年までに未踏の科学分野を探究するAIロボット科学者の開発を目指している。本稿では、人間と共に探究を行うAIロボット科学者に必要な要素技術、科学探究のニーズ、プロジェクト・マネジメントについて紹介する。

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